NZ初の宿泊山行、キャス・ラグーントラック( Cass-Lagoon track )

日  程 2001.10.24 〜 27
メンバー 亀山(単独・報告)
概  略 国道73号線、アーサーズパス手前の集落キャスから入山、ハミルトンハットで贅沢な山小屋初夜を送りラグーンサドル経由で国道に戻る  ー地図は後日ー

10月24日

精神的に追い詰められていた。去年のカナダでロッキーを歩いたが、無職住所不定で全ての時間を自分で使えるはずなのにあっという間に夏が終わってしまった。それを知っているからこそ、ここNZでは春から興味あるトランピングに挑戦したかった。しかし。。。。足が戻ってこない。ここでいう「足」とは移動手段のこと。エンジンがオイルあがりを起こし遂には白煙がまるで火事のよう。アクセル全開でも3000回転まで、走行中に突然止まってしまう。このままでは売るどころか自分で乗ることもできなくなる。と、入院を決めた。しかし2週間経ってもまだ直った、との返事がこない。友人の家に居候させてもらいながら電話を待つが脈なし、こちらから電話すれば蕎麦屋の出前のように「明日できる」。メスベンにリハビリに行く機会に「今度こそ」と店に出向き、まだいくつかのパーツが付いていないがとりあえず動く。奪うように乗ってきた。ともあれ山へ、天気予報も確認していないがアーサーズパスへ向かった。  
今回の行き先はアーサーズパス国立公園の手前、クレイギーバーン森林公園(
Craigieburn forest park )のキャス・ラグーントラック( Cass-Lagoon track )。Webで見つけたトレッキング情報でそこのハミルトンハット( Hamilton Hut )が泊まる価値大、と書かれていたのが興味の始まりだった。  
リハビリに行き、車を引き取り、車の小物を買って、と一日を使っていたので現地に近づいたのは夕方になっていた。  
このトラックでループを描くには国道を5km以上歩かなければいけない。それもかなりの勾配の繰り返す山道だ。トラックの出口側に車をとめて「10MIN」と書いた段ボールを持って国道に立つことにした。峠道なので交通量は極端に少ない。車があれば遥か先から動く点がわかる。なーんにも動くものが見えない。ところが18時27分に道路に立ち、18時35分には車に乗っていたのだ。アンビリーバボー!!!

18:50 キャス側からスタートする。しばらくは4輪のわだちを歩き1時間ほどでクレイギーバーン森林公園の看板につく。まだ空は青く、行動食で軽い夕飯として日が沈むまで進むことにした。

20:10 歩き出すとすぐに河原に導かれる。不安定な河原の石の中を進むのは見た目よりも気を使う。ペースも上げられない。

20:30 ルートを示すポールが森の中へ入っていく。ほっとすると同時に光が足りなくなってくる。森に入ってしばらくするとキャンプ適地があった。焚き火の跡もある、薪も転がっている。まだ先に、と思ったが最後、それから先は幅50cm程度の山道がどこまでも続く。木の密度が濃くコースを外れても平らなところは見当たらない。キャス川側は斜度が強く切れこんでいる。

21:15 せっかく歩いているのに植物達を見れないでただ歩くのはもったいないと前進中止。トラックの上にテントを張る。この時間歩く人もいないだろう。  

10月25日

二度寝して7時起床、8時半撤収終了、ストレッチをして歩き出す。森林浴が続く。40分経って勾配がきつくなったな、と思った頃キャスサドルハット( Cass Saddle Hut )につく。物置2個ぐらいの大きさ、水のタンクは無く、マットレスはスポンジ剥き出しのまま。それでも薪ストーブはある。

9:20 ハットを出発。ほどなくトラックとしては峠にあたる鞍部、キャスサドル( Cass Saddle )の低木地帯をぬけまた森に入る。木々の枝にぶら下がってひげのように着生するオールドマンズ・ビアード( Old man's beard )が心地よい雰囲気をつくりだす。着生と書いたがきのこなどのようにぶら下がった木から養分を取っているわけではないので寄生とは違う。森を抜け、川の脇に広がる草原を歩いていると少し小高くなったところに人工物が見えてきた。まるで別荘のような外観だ。

11:45 噂に聞いたハミルトンハットについた。誰もいないらしい。テラスに日が降り注ぎ、正面には川を挟んでスタグヒル( Stug Hill 1639m )が構えている。湿ったテントを干しながら中を覗くとこれまた綺麗過ぎ。それこそ貸し別荘かと思ってしまう。ベッドを確保して荷を減らしサイドトリップの準備をする。これは地図には載っていないがクライストチャーチの山用品屋のおにいちゃんから教えてもらったコースだ。

13:10 ちょっと小走りにスタートする。地図で見る限り往復だと10km以上ある。しかも河原歩きだったらよろしくない。ラグーンコースへの分岐からそのまま直線、と思ったらしっかり標識があり行く道は整然としている。「あれ?ついこの間この地形図買ったばかりなのに」やっぱりNZなのである。後日確認したら2000年発行、と書かれていた。さっきまでいた太陽は雲に隠されどうも黒い雲がやってくる。ほどなくして雨が落ちてきた。ブッシュの下に入って休憩がてらの雨宿り。すぐにサンドフライ(NZの蚊、かまれると大きく膨らみ異常に痒い、しかも1週間たってもまだ痒みがひかず僕の天敵)に囲まれてしまった。ごめんなさい、この場所を明渡します、と出発。でも通り雨で本格的に降るまでにはもう少し時間がありそうだ。道は不明瞭になりマークも特に無い。ハーパー川( Haper river )に沿って下っていくが、膝上の渡河もある。段丘にあがれば針のように硬くまっすぐな葉を持つワイルド・アイリッシュマン( Wild Irishman )のブッシュに阻まれたり、湿地帯で靴が一瞬に泥一色に変わってしまったりと出し物は多い。そして羊が草を食む中を通過していく。食べることに集中していて目の前まで僕が来たときに初めて気づいて慌てて逃げていく。羊も走れるのだ。最後まで牧羊犬も羊飼いも見ることはなかった。

15:10 教えてもらったピナクルス( The Pinnacles )に着いた。これまで何度か見てきた侵食台地。高さ30mほどだろうか、ろうそくのように細く長い柱がいくつも束になっている。規模は小さく、これを見るためだけに来るところではない。あくまでサイドトリップの一つだと思う。川を走る風が強くなってきた。少し寒くもある。また水に浸かるので帰路に着く。帰りは勾配はゆるいものの登り傾向、それでも往路と同じ2時間でハミルトンハットに帰ってきた。

誰もいない。薪ストーブに火をつけお湯を暖めながら米を研ぐ。今日は水があるので2回、いや3回研いでしまおう、こんなことで贅沢を感じられるなんて幸せ者だ。夜が来ると外は雲のかかった三日月の薄明かりだけ、ハットの中は薪の燃える赤とろうそくの黄色い炎だけが眼に見える色になっていた。

10月26日

居心地が良過ぎる。アラームの音が鳴っているのに気づきながらもそのまま寝袋に入っていた。8時に動き出してまず薪ストーブのふたを開ける。まだオキが残っている。寝る前に載せておいた鍋の水は程よくお湯になっているので朝の洗顔は温かい。夕飯の残りの野菜スープを暖めなおしてパンで朝食。天気は雲が多いものの雨の雲ではないので一安心。一人だけの宿泊客だったが全フロア−、外のベランダも含めて掃除をする。ストーブの中の灰の始末の方法がわからなかったのでごめんなさいと備え付けのビジターブックに書き残す。

10:30 何か理由を見つけて連泊したいところだがハミルトンハットを後にする。ぜひもう一度、今度はしこたま食料を持ってゆっくりしに来たい。30分ほど登りが続く。朝一という事もありたまらず荷をおろして休憩にする。今日のコースは長いと聞いていたので低燃費で進もうと思う。上流に向かって左岸を森に入ったり河原を歩いたりしながら進んでいく。気づくとルートを示すサインが見当たらなくなっている。地図を見ると高巻くところがあるのではそこかと思い、その後にトラックはまた河原に出るので合流するだろうとそのまま歩を進める。やぶこぎの様相を呈してきた。なんとなくルートは見えるのだが獣道だろうか。川の流れも太いので本流だろうともう少し進む。んー、コンパスを出して川筋の方角を確かめる。と、真西を向いている。やってしまった、枝沢を登ってる。戻るとたしかに対岸にサインが見えた。思い込みはいかんイカン。

12:30 ウエストハーパーハット( West Harper Hut )に着く。日当たりは良いがカテゴリーが一つ落ちるとこんなにも差が出るものなのか。でも料金は10ドルと5ドルという違いなのだ。15分の休憩をしてリュックを背負うが、さっきのことがあるので地図で現在地をしっかり抑えながら進む。

地図に書いてある通りの出合いがある。ほぼ1対1のしっかりした沢だ。ケルンに導かれながら右の沢を上がっていく。また高巻きの登りが始まる。登りきって小休止。思えばハットを出てからずっと登り勾配だ。決して急ではないが行き先を示すマーカーが常に目線よりも上にある。じわじわと体力を吸い取られていく感じがしている。なんでこんなに疲労のことが頭に入ってくるのだろう、そんなことを考えながら登っていた。そうだ、単調。いい言葉が出てきた。単調だから内に入ってきてしまうんだ。

15:05 ラグーンサドル( Lagoon Saddle )のシェルターが見えてきた。ハットは川を挟んだ向いに建つがここまで来ると川は幅30cm程度の小川かそれ以下にまでかわいくなっている。カテゴリー的にはハットの下位にシェルターがあるのだが、ここの場合は泊まるとしたらシェルターのほうを選びたくなる。この先でこれまで遡上してきたハーパーリバーの源泉となる池がある。つまりこれでやっと登り一辺倒のトラックが終了する。40分の長い休憩をして最後の登りに取りかかる。と、ヒトに遭遇!初めにヒッチしてからこれまで人間と接触していなかった。3日ぶりのご体面になる。アジア系のカップルでハミルトンハットまで行くという。彼女の靴がジョギングシューズのようなものだったのがちょっと気になったが、あなた達にとってこの後はずっと下りだからいいですよ、とエールを送る。

16:00 ようやっとトラックの最高点1200m地点にやってきた。ラグーンサドルの後、景色は一変して潅木の中、まわりの山々が見渡せるようになる。そして眼下にワイマカリリリバー( Waimakariri river )が幾筋にも分かれながら気ままに流れていくのがみえる。この川がクライストチャーチの空港に降り立つときに良く見える川だ。

待ち焦がれていた下りが始まったが、まるで田んぼの中を歩いているようなぬかるみが続く。簡単にはゴールに着けないのだ、マウントブルース( Mt. Bruce )の北斜面を横切っていく。地図でいうと標高差260mを3kmの直線で下りていく。標高1000mあたりから森の中に入りトラックの終わりが近づいてきたことが実感できてくる。ここの森はマウンテンビーチ( Mountain Beech 無理して日本語にするなら、山ぶな?)が占めていてシダ類は目に入ってこない。この森に限らず今回歩いた森ではシダ類を見ることは稀だった。森の低い部分はマウンテンビーチの幼木が目立ち、西海岸の原生林ではあれほどまで優勢なシダ類が影を潜めている。小さな島国でもその変化は大きく興味深い。マウンテンビーチは特に寒さに強いぶなとして紹介されている。周辺は冬になればパウダースノーを求めてスキーヤーが集まるスキー場( Club Field )が並んでいる。

17:30 トラックの出口に建つビーリーハット( Bealey hut )に到着。前評判どおりの長い復路だった。車の無事を確かめ、テントなどを車において代わりに食材とビールを持ってビーリーハットに戻りもう一晩、このトラックで過ごす。成長していく三日月は明るく、星の数は少ないものの星空の透明感にしばらく上を向いたままになっていた。