日 程 2001.12.06 〜 12.15心が迷っているときに第三者に会うという偶然がその決定権をもつときがある。今回のステュワート島への踏みだしはその偶然が起きたときだった。インバカーギルのスーパーで食料を買っていた。こちらのスーパーはとにかく巨大で一度入るとレジのある終点まで長い道のりになる。逆に言うとレジまで来て途中の商品コーナーに戻るには長い道を逆にたどらなければならない。普通なら「いいや、今度で」と次回の買い物にまわしてしまう。ただ今回は山小屋での朝食用に買い物カゴに入れたミューズリーが入り口傍の秤売りコーナーのものとレジ近くで見つけた包装された物で値段がおおきく違うことに気づき袋売りの方が安いのでは?とその長い道を戻ったのである。そしてたどり着いた秤売りコーナーで見覚えのあるアジア系女性がトレイルミックスをお試し程度の量すくっている。んん??と横顔の見えるところまで移動、やっぱりそうだ!Waitutu
tracks
で最終日を共にしたマミエ殿だった。明日島に渡るという。彼女の食料選びを教わりながらもう一度レジへの道を歩いていくうちにもう少し彼女の話を聞きたくなってきた。行きたいと思っていた島には違いない、その時期を決めかねていた僕にはいい動機、一緒に島に渡ることの了解を依頼していた。マミエ殿とは明日フェリー乗り場で会おうとYHA(ユースホステル)に戻り12日間分の食料をザックにつめていると少し緊張している自分に気がついた。こんな長期の単独行は初めてだ。大丈夫、きっと帰ってこれる。
12月6日
国道1号線の南端部の町ブラフ(
Bluff
)からフェリーに乗り、島内唯一の町ハーフムーンベイ(
Halfmoon
Bay )へ。35kmの海峡(
Foveaux
Strait )越えは波高く久々の船酔いにグロッキー状態でバックパッカーズを探した。元気を取り戻した翌日、DOCに出向いて情報を集め5万分の1の地形図をレンタル(レンタル料5ドル/1枚。但しデポジットが20ドル)、入山届を提出(下山予定日を1日過ぎると警察による捜索開始)、船(
Water
Taxi )の手配(チャーター扱いになるので同じ行き先の先約者がいなければ自分達で時間を指定できる)をして出発までの数時間、町の観光をする。前祝いのランチは島内きってのファーストフード屋カイ・カート(
Kai
Kart )のフィッシュ・アンド・チップスをきめる。ただ外は雨が強弱を繰り返しながら降り続いている。
16:00 雨の中桟橋へ向いボートに乗り込む。目指すのはクリスマス・ビレッジ・ハット( Christmas Village Hut )。もちろん町から歩いていけるのだが徒歩2日分をショートカットして島での第一歩をステュワート島最高峰アングレム山( Mt. Anglem )へのサイドトリップから始めることにした。50分で2日分の距離を移動してしまった。モーターボートからプラスチックの手漕ぎボートに乗り換えて岩場に一人づつ上陸。数百m先に山小屋は見えるのだが、どっこいいきなりの急勾配ブッシュウォークが待っていた。
17:15 山小屋に着いたものの既にズボンは泥の洗礼を受けていたのであった。
陽の長い一日が終わろうとする頃、雨は上がり虹が海から立ち上がってきた。「止まない雨は無い」単車に乗って旅をしていたときのフレーズが口から洩れていた。
12月7日
8:00 起床、晴れてる。この2日間はマミエ殿のバックアップを受け、僕の食料は使わずに朝食を摂る。小屋の正面には海が広がり南島が見える。とろけたい衝動を我慢して日帰りウォークの軽量装備を整える。
10:00 小屋を後にする。昨晩の宿泊者はドイツ人のディター(
Mr.
Dieter )、船から一緒だったクリスティーナ(
Ms.
Christina )と夜遅くに到着した男性の5人。ディターは竿を振っている。これぞホリデー!を絵にしたような時間を過ごしている。後で伝え聞いたことだが彼は全てのハットで2泊づつして島を廻ったという。15分で本線とアングレム山への分岐点を通過、ゆっくり高度をあげていく。何故初めにアングレム山なのかというと、このコースが島内の中でも屈指の泥んこコース(
Bog-fields
)として紹介されていたからである。初めに最悪コースを知ることで今後の手応えを感じたかった。さらに軽量ザックなのでスタックしたときの脱出が容易なはずである。今日はマミエ殿と行動を共にする。
道はドライで歩きやすい。時折森の切れ間から覗ける風景は青い海が低くなっていくのを実感でき、ハットでは目線と同じ高さにあった島々が立体的に見えてくる。高さ10m程度の森を進む。中間層は葉がなく上部の日の当たる場所だけに葉を茂らせている。風通しのいい森だ。良く見るとそれはマヌカである。マヌカというと目線位の高さに白い小さな花を沢山つけている姿が浮かぶがこんなに高く生長して森を形成するすることもできるのである。
木が倒れて道を塞ぎ迂回するうちにトラックを外れてしまい、トラックを示す三角マークを探しに倒木をのっこしたりしていると次第にトラックは水分を含みだし泥がトラックを覆うようになってきた。とはいえダブルストックで支点を作りながら泥の脇に歩を進めていける。時折後ろでマミエ殿の“泥はまり音”が聞こえてくる。
森林限界を越え、低木地帯になると湿原的泥んこコースが広がっている。しかし「深そうだな」と思うところには往々にして迂回ルートがその横に伸びている。山頂に続く稜線に出ると西風がそのまま当たってきた。
14:45 山頂は岩場で強い風が何にも当たらずに通りすぎていく。ジャケットを着こんでから360度を見なおす。北側はこれから歩こうとしている海岸線が良く判る。緑色の森が海まで競りだしている中、白い砂浜がパッチワークのように島の縁取りに色を付け加えている。南西にはメイソンベイ( Mason Bay )の長く白い浜がカーブを描いている。その手前にはフレッシュウォーター川( Freshwater River )に流れを集める広大な湿地帯が横たわっている。人の立ち入りが制限されている島の南部は雲がかかり、立ち入りどころか見る事も容易にさせてくれないかのようだ。
15:45 1時間山頂に居たものの風はおさまる気配も無く体温を奪っていくので下山を始める。稜線から外れるとぴたりと風は止み日差しにポカポカと暖められる。また泥んこコースに入っていくがかなり回避方法が判ってきた。本線に合流し小屋もまじか、というところで往きに見つけておいた倒木を解体して薪サイズに調整、今夜の燃料を運ぶ。
20:35 山小屋に到着。ディター、クリスティーナそして僕ら二人の計4人と昨日と同じメンバーで顔を揃えた。
実は今日のコース、コース案内では往復5時間、と書かれていたが僕らは往路4.5時間、復路5時間だった。早く歩くだけが山遊びではないのだ!と主張したい。
12月8日
10:10 もう一度マミエ殿のバックアップを受けて朝食を摂りフルパッキングで出陣する。ここからは単独になる。先に出発したディターを追いかける。昨日歩いたアングレム山への分岐点ではそのまま本線をたどる。トラックは乾いていてスピードにのる。1時間歩いた頃、休憩をとっていたディターを発見、挨拶を交わして先に行かしてもらう。島の形に沿って標高50m程度の森の中をトラックは続いていく。いくつも沢を渡るが当然橋は無く、その度に沢床まで下り向いの崖を登っていく。
12:40 少し高さを稼いだトラックの向こうにラッキービーチ( Lucky Beach )が見えてきた。幅は狭いが砂浜の白さをはっきり確認できる。空は晴れ、海の色も鮮やかだ。砂浜に出る前にゴロタ石をぬけ、浜へ流れ込む川を渡る。ビーチの終わりまで西へ向い、砂浜の次は岩の上を伝っていく。スイスからの2人組とすれ違う。この先のハットはお勧めだという。
12:56 海岸から森へ再び入っていく。地形図では標高150mほどを一気に上がっていくので気合を入れて登りだす。しかし実際には60〜80m程度であった。足元を見ながら土の階段を登っていると何か視界に森以外の色が入った。顔をあげると僕の前にペンギンが2匹、彼らもトラックを登っている。時間にすれば数秒のことだがペンギンと一緒に山を登ってしまった。眉毛の黄色が鮮やかなイエローアイドペンギン(
Yellow-eyed
penguins )で斜面に出来た穴の中に消えていった。彼らは海岸から数十m上がったところに巣穴をつくるという。彼らは自分の家に帰っていたのだ。
14:45 ハットへの分岐点、休憩を兼ねてハットに向かう。ヤンキーリバーハット(
Yankee
River Hut )は河口を正面に見る場所にあり、数分歩けば海に出る。ハットの中には「アワビの収穫規制」が貼ってある。ということは“アワビがいる”ということなのだろう。
15:30 まだまだ日は高いので次のハットを目指す。また山を一つ越える。今度は地形図どおりに標高250mで道は平らになり次のビーチへ向けて下りていく。浜に近づいていくと土壌は砂が豊富になり、なんとNZ南端の島で砂丘の中を歩いている。
17:00 スモーキービーチ(
Smoky
Beach )と名づけられたこの浜は先ほどのヤンキービーチよりも長く、広い砂浜のビーチが続く。自分だけの足跡に悦に入ってしまったりする。30分間砂浜に足跡を残し浜の西端に流れ込む川の対岸から再び森に入る。川の少し上流に橋がかかっているのだが海は穏やかで流れ込みも深くないのでそのまま浜から直接森に入る。このショートカット情報はハーフムーンベイのDOCで入手していた。
もう一度斜面を登り標高を160mまで上げる。地形図ではこの高さを保ちながら次のハットの手前でストンと落ちるように見えたが実際はいくつもの沢を横切り、その度に数十m下降、渡床、元の高さまでの登り返し。という激しいアップダウンの連続が待っていた。何度か繰り返した頃「数えておけばよかった」と気づいたが“時既に遅し”、地形図では5本の沢を確認できるが10回以上は繰り返したと思う。確かにコースの解説書には
undulate
(起伏のある)という言葉で説明されている。ボッカ訓練に最高のルートとして推薦したい。反対から来る誰かに会ったら伝えようとセリフを考えていた。
I
truly recognize what 'undulate' means. (
undulate
の意味、体で知ったね)
1時間半が経過すると左の腰が痛みだした。ザックのウエストベルトそのものは当たっていないのでどこかへの圧迫が腰に負担をかけているのだろうか。初めて痛む場所だ。
20:00 崖の上に立つロングハーリーハット(
Long
Harry Hut )に到着。眼下にロングハーリービーチ(
Long
Harry Beach )が見えるが懸垂下降が必要なほどの急斜面なので見下ろすだけにした。しかしそこから見るビーチは規模は小さいものの白く輝いていて十分な魅力を持っている。ロングハーリーハットはベット6つの小さなハットだが一人なので快適な夜を過ごせそうだ。さらに一枚の張り紙に笑いを隠せなかった。
Stove
out for repairs. (修理のためストーブは外出中!)
夜中にトイレに起きるとキィウィらしき塊が正面の森の中でゴソゴソしていた。そして星が降っている。
12月9日
7:15 起床、一人なのでのんびり寝てしまった。今日もハットの一つ飛ばしを狙いたい。
9:04 掃除まで終了して出発。今晩はディターが泊まるのかな、それとも今日も彼は竿を振っているのだろうか?森の中だが稜線伝いに上がっていく。30分で最高地点110mを通過、次のビーチに下りていく。ここは岩の海岸で砂浜はない。アザラシがひなたぼっこをしている。アザラシの方が先に気づいて海の方へと逃げていった。岩なのかアザラシなのか、なかなか判らない。また海岸の西端から森に入る。今日は午前中から腰に痛みが走る。ベルトが当たっているのではない。一体どこからこの痛みは来ているのだろう。刺痛系で一歩が出せなくなってしまう。
10:50 本線から50mほど寄り道をして展望台(
lookout
)で休憩する。海底の起伏が判るほど透き通った海の先にラッグド島(
Rugged
Islands )が浮いている。さらにその先には確かに地球が丸いことが判る弓なりの水平線が見える。南にはこれから向かうラジェディ山脈(
Ruggedy
mountains )のギザギザ稜線が見てとれる。この晴れ間の中を歩けることに感謝した。
Thank
you for
your awesome scenery, Stewart Island!
11:20 ラジェディ沢(
Ruggedy
stream )を渡りイーストラジェディビーチ(
East
Ruggedy Beach )に下り、もう一度砂丘の中を横断していく。純粋な砂だけ、ではなく砂丘の中からタソックが顔を出しているが風紋もあり気分は砂漠の探検家である。
11:45 イーストラジェディハット(
East
Ruggedy Hut )に着く。予定どおり午前中にここまで消化できたので靴を脱いでランチタイムにする。といってもサンドイッチがあるわけではないが・・・。このハットのトイレはこれまで歩いてきたどのハットのものよりも綺麗で用を足すのに気が引けてしまった。写真に残しておくべきだった。
12:30 2回戦開始。今度はウエストラジェディビーチ(
West
Ruggedy Beach )が待っている。ここで島の北端を巻くコースは終わり、これから島の西海岸に沿って南下していく。
13:00 砂丘を下ってビーチに降り立つ。遠浅の砂浜が広がる。かなりとろける。が、歩速は5速全開、波打ち際で砂のしまった部分を進んでいく。30分かからずに砂浜の南端に辿りつき峠に向けての上りが始まる。
15:10 この部分は新しいトラックで旧道とぶつかるはずだが旧道は確認できないままラジェディ山脈の鞍部を通過した。また展望台を示す看板に連れられて寄り道する。次のビーチに出たのは1時間後だった。小さなビーチで休んだ後本日最後の登りに取り付く。
17:30 標高205mまで最初の登りを終える。後は稜線を辿っていくはずだ。さすがに疲れを感じザックを下ろす。腰の痛みは慢性化してきている。判断力が甘くなり何度も根に足をつっかけ、足を滑らせてしまう。歩速が落ちているのを自分で感じながら稜線を進むとポッカリ森が抜けて西風が強烈に通り抜けていく。土砂崩れの後なのか、砂地が見えている。再び森の中に身を入れるとすぐにハットの標識が目に入った。
18:40 ヘルファイヤーパスハット(
Hellfire
Pass Hut )には4人が到着していて暖炉の火もついていて温かい空間になっていた。歩きすぎたのか口数が減ってしまっている。ここまで疲れてしまってはいけないな、と反省。明日からは通常日程に戻そう。
12月10日
9:06 彼らより一足先に出発、3百m台の山々のピークを伝いながら稜線を南下していく。体は楽になっているものの元には戻っていない。やっぱり疲れの漬けを残すような歩き方はよろしくないのだ。
10:44 ゆっくりとトラックは下り始め泥をよけるためにトラックの端を右へ左へと渡りながら下りていると、ゴー--ンと横にせりだした幹におでこをヒットさせてしまった。しばし沈黙。。。漫画に出てくるような星がはじけた。出血はしていないので一安心だがプックリと膨らんでいる。いかんいかん、自分の体は自分でお世話しないと。。。反省
11:37 リトルヘルファイヤービーチ(
Little
Hellfire Beach )に出る。砂浜の南端まで移動してから休憩する。もう一回山を越えたらながーい砂浜が待っているはずだ。サザンラータが真っ赤な花をはじかせている。ヒトの作る色は決して植物の色を再現できない。僕の写真を見ながらそんなコメントをくれたのはイギリスからのピーター(
Mr.
Peter )だった。
13:27 メイソンベイ(
Mason
Bay )に降り立つ。前半は陸が海の傍まで近づいているので岩場を歩くがじきに砂浜に変わる。そこからは10km以上の砂浜が弧を描きながら続いている。今日はそのうちの4kmを歩いてメイソンベイハット(
Mason
Bay Hut )がゴールになる。ゴールといえばこれで一つ目の目標
North
West Circuit を完了することになる。前半部分をはしょったが。。。
50分間で砂浜ステージを終え、ハットに向けて川に沿って内陸に入る。海に入ってしまおうか、と何度も思ったがとりあえずハットに先にいくことにした。
14:55 河口から20分歩いてハットについた。ここは食堂と寝室が別部屋になっていてストーブの熱を寝室の暖房に使えないのが残念だが大勢のトランパーが利用しているにもかかわらず非常にきれいに保たれている。さて、荷物を置いて海水浴に行こう!と思ったもののハットの目の前に川が流れていて水浴び用とも思える川岸がある。あっさりここでいいや、と変更してしまった。
スッキリしてベットでストレッチをしていると昨晩一緒だった彼らの声が聞こえてきた。オベッドはイスラエルから、ガブはイギリスからの旅行者でガブは僕と同じワーキングホリデーでNZに来ているという。このトランピングの後はフルーツピッキングのアルバイトをするそうだ。ハットは3方向からのトラックの合流点なので夕方になるとわさわさとトランパーが集まってきた。
夕食の後オベッドに「シットヘッド( Shit
head )」というトランプゲームを教わりながら夜を楽しむ。名前はかなりひどいが決してバカでは出来ないゲームだと思う。僕の隣にはスイスからの女性が座り、僕と同様にオベッドに教わりながら夜をたのしんでいた。
12月11日
9:10 オベッド達と別れ再びメイソンベイのビーチに戻る。食料は十分にあり体も随分楽になったので
Southern
Circuit をつないで
Bigger
Circuit を目指す。顕著な沢の流れ込みを4つ通過するはずだ。4つ目のキャバリエ沢と思われる流れを越し森への入り口を探す。今日の行程は短いので気持ちにゆとりがあり、前方に見える山のどこの鞍部を通過するのか地図から読み取る練習をしたりしてみる。
10:40 森へといざなうポールマークを見つけたところで一休み。メイソンベイも見収めだ。
12:15 標高200mを越えて傾斜はゆるくなり台地状になる。しばらく進むと湿原が広がり靴のソールの分くらいが常に沈むようなやわらかい草原地帯を抜ける。
13:38 自分の高度計で標高405m、今日の最高地点アダムスヒル(
Adams
Hill: 401m )に立つ。一段高くなった岩の上に日本でいう三角点があった。今まで歩いてきたメイソンベイ方面とこれから向かうダフボーイベイ(
Doughboy
Bay )が南北に対峙している。
おなかを落ちつかせてからダフボーイベイに落ちていくが、この道はこれまでで最低のトラックだ。道を作りました、というのは判るが多くの木々が道を塞ぎ、泥の中から顔を覗かせた岩の落差はヒトの一歩を越えている。トラックを作ることが原始林にインパクトを与えることは承知しているつもりだったが、このトラックで見せつけられた気がした。泥がうんぬん、は関係ない。このトラックを歩いていても少しも楽しくなく自然に怒られている気分だ。トラック自身が自然の破壊者(
Disaster
of rainforest )に思えてならない。
15:12 砂浜に出る手前で川にぶつかり、森の泥を流す。気持ちは下降気味だ。せっかくの一人の空間を持ちなおすために海岸で夕飯の一品を探すことにした。砂浜の北側には半島が飛び出ていて岩場になっている。干潮で歩きやすいのでアワビ(
Paua
)じゃアワビじゃ、と探してみる。しかし・・・やっぱり潜らないとダメなのか、見つけられない。膝まで入って靴の中まで海水に漬けたのに成果ゼロでは悔しいのでムール貝(
Mussle
)を5つ、今夜食べられる分だけ獲らせて貰った。雨が短い周期で降ってくるのでねぐらに向かう。このダフボーイベイには捕鯨が盛んだった当時シェルターとして利用されていた洞窟があり、今はDOCの管理下にあって僕らが泊まってもよくなっている。立ち寄るとかなり興味が引かれた。が、蚊とハエとサンドフライ対策を万全に出来る装備をもって出直したい。
16:20 ダフボーイベイ・ビビー( Doughboy Bay Bivvy )に着く。ここもハットではないので非難小屋のランクになっている。とはいえシートで拡張され、ストーブまであるこの空間は僕の溝にどっぷりはまってしまった。最高の空間だ。先人達が少しづつ置いていった食料はネズミ除けのためにブリキのケースに入っている。調味料、鍋類も棚に載っかっている。もしもう一度この島に来るチャンスがあるなら、このビビーを目的にして数日間とろけたい。ビジターブックへの記入者の数はぐっと減っている。ムール貝の炊き込みご飯で夜を過ごす。
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12月12日
8:30 今回は一周することを目指したいので雨の中だがビビーを出ていく。さらに今日のコースが最も深い泥があると云われているところなので雨の後よりも降っている方がまだ勝算があると判断した。ダフボーイヒル(
Doughboy
Hill: 410m )に向けて一気に登っていく。アップダウンの繰り返しよりもずっと楽な気がする。1時間で登りきり、昨日歩いたアダムスヒルを見ながらラケアフア川(
Rakeahua
River )に向かってゆっくり下がっていく。
11:15 川に合流しラケアフア川が目線の高さになった。このあとは川に沿って湿地帯を進むので本格的な泥んこゾーンとのゲームとなる。本線の脇に逃げ道があるのだがその逃げ道も泥をたっぷりと含んでいる。ダブルストックで通常の2本足では足を置けない斜面を使ってクリアーしていく。しかしラケアフア川にかかる橋を渡り小屋の近くになると、「泳ぐのではないか」と思えるほどの泥の海が出てきた。きっと先人がいるはずだと脇道を探す。と枝にテープの貼られた新しそうな迂回路が目に入った。テープを追っていくとこれまでの数mの逃げ道とは違ってまったく別のコースに導かれている。とりあえずどこに出るのか確認しようと先に進んでみると泥の海の対岸に抜けてくれた。コース案内に書かれていた「腰まで浸かるような泥ゾーン」には迂回路が完成していたということか。
14:03 ラケアフアハット(
Rakeahua
Hut )に到着。ドイツ人カップルが暖をとっていた。聞けばこの先の山小屋にカヌーで上陸しトランピングを始めたのだという。こういう複合技もありか、うらやましい。相変わらず雨は緩急をつけながらも止まずに落ちてくる。
14:40 寒さを感じるものの次のハットを目指して歩き出した。しかし・・・また自分の体との相談を忘れてしまっていた。15:16 倒木をまたいだ時にカクンと膝が抗議した。痛みは短時間で消えたが今までのスピードでは歩けない。次のハットまでの3時間か、引き返す1時間か。答えは選べなかった。とたんに慎重になって引き返す。
16:00 ハットに戻ってきた。これで良かったのだ。もう急ぐことないじゃないか。ストーブに薪を足す。さっきのドイツ人カップルはビビーの方へ歩を進めるといっていた。薪のもとになる枝木は納屋に集められていたので薪作りに精を出し、行動中の帽子から靴まで全てを吊るす。明日心気一転歩きなおそう。今夜も一人、温かい部屋は贅沢な時間を過ごせる。
12月13日
8:30 掃除を完了して出発する。ベット6つのハットなので掃除する面積もたかが知れている。ここのストーブは燃焼効率が良くすぐに全てが灰になってしまうので朝起きてつけた火も掃除の終わる頃にはオキも燃え尽きていた。ピーターソンインレット(
Peterson
Inlet )とは島の中ほどまで入りこむ入り江の総称だがそのうちの一つサウスウエストアーム(
South
West Arm )の北岸に沿って進む。緩やかなアップダウンを繰り返すがクモの巣が多く、狙ったかのように丁度顔の高さにあるので顔から突っ込んでしまう。余談だがこの国に毒グモはまったくいない、ゼロであるので安心していい。
10:20 ラケアフア山(
Mt.
Rakeahua )山頂へ伸びる道は2つ地図に記されているが東側のルートは閉鎖されたと昨日泊まったハットに掲示されていた。その閉鎖されたトラックの分岐点らしきところにつく。荒れたトラックを少し進むとぶなの幹にコースマークを示す黄色い三角印が確認できた。現在地を正確に把握できたところで引き返す。今日のトラックは山の斜面に切られた道だが景色に変化が少なく退屈気味だ。3時間経つ頃再び腰にビン、ビーンと痛みが走り出した。
12:50 フレッズキャンプハット(
Fred's
Camp Hut )につく。ここに自家ボートでやってきてダイビング、釣り、ハンティングなどアウトドアという言葉の鏡のようなホリデーを過ごしているNZ親子が連泊していた。空は重たいものの雨はこらえてくれているので長い昼休みをとって 13:30 先に進む。
大湿地帯に出るまで高さがあるところはその斜面を巻くようにトラックは続く。ふと森の表面を覆うシダが不自然な動きをしているのが目に入った。いたいた、これが野生のキィウィか。長いくちばしを土に刺しておやつタイムだろうか。時刻は14:55 まっぴるま、である。本来キィウィは夜行性の動物でありキィウィウォッチングなどは夜に開催されるのが普通である。しかしこの島に生息する
Stewart
Island brown kiwi は日中も活動する。(豆知識:NZには6亜種のKiwiが生息する。
Stewart
Island brown kiwi は二万羽以上認されていて個体数の豊富なKiwiのひとつである。)
15:30 ボート乗り場への分岐まできた。短時間だが日がさし、ムッと湿原から湯気が沸いてくる気がする。ここに来る前に一発、深い泥沈(そう呼ぶかは知らない)をしてしまった。これまで何度も足を置いてきた硬くしまった土と同じ色をしていたそこにジュルンッと膝の上まで一気に呑み込まれてしまった。残念、この島でのゼロ泥沈を意識した途端にやってしまった。
湿原地帯を抜けるトラックは完全に地塘のなかに消えていたり、田植え前の田んぼのようになっていてまっすぐトラックをフォローできない。先人達が残したいくつもの迂回路から今日の湿地に一番合うルートを選びながら進む。今の1分、後の5分。とつぶやきながら巻き道を一つ一つ繋げていく。17時を過ぎると湿原を抜ける風が強烈になってきた。時々その風の中に雨粒も混ざっている。後半は土手道のような硬い道になり歩きやすい。
17:30 フレッシュウォーターランディングハット(
Freshwater
Landing Hut )を目の前にしたワイヤーブリッジを渡る。中には北島からの親子5人がいた。夕方になって青空が広がってきた。親子達はロッキー山に散歩に出かけたが昨日のことがあるので僕は本日の活動打ち止め、と自分に言い聞かせた。
ほぼぐるりと島を廻ってきた。コース完歩を確信する。ご飯を炊きながらビジターブックを眺めていた。えっ!マミエ殿のサインがある。しかも彼女はメイソンベイまで歩いているではないか。日付を見ると僕がメイソンベイを発ったその晩に彼女はメイソンベイハットに泊まっていた。さらに昨晩彼女はここに泊まっている。いやー、ニヤミスの連続技だ。ビジターブックを見ながらニヤついている自分が判ってしまった。
12月14日
ゴールをあせらず休息日にする。午前中は薪作りに精を出し今晩の燃料を仕込む。5人家族がフレッズキャンプハットに向けて出発するとハットは僕だけになり掃除をして机の向きまで替えて模様替えをしてしまう。本を読みながら眠気に素直に襲われて昼寝もする。いやー幸せなのだ。。。
雲はなかなかきれない。マミエ殿のコメントにあったがロッキー山山頂からのパノラマは
must
see らしい。晴れたら出発、と空を眺めていた。1時過ぎにボートが桟橋につき3人下りてきた。しかしここでランチをとった後メイソンベイに向けて歩いていった。まだひとり・・・・ウキッ!
2時過ぎにコロラドからのケリーが立ち寄る。3時のボートでハーフムーンベイに帰るという。原生林をバックにシャッターを押してあげたりして彼女の思いで作りに協力する。まだひとり・・・・ウキッ!
ほどなくしてもう一人デイパックでメイソンベイまでいってしまおうという彼が休みに来る。食料は全てCold
food (火を必要としないものをこう呼ぶらしい。果物やシリアル)で持ちものは寝袋と食料だけだという。そんな山歩きもありなのだ。まだひとり・・・・ウキッ!
時刻は4時に近くなろうとしていた。まだケリーを拾うはずのボートはこない。もしやあの1時のボートがそうだったのではないだろうか。船頭が「ハーフムーンベイに帰る人はいないかぁ」と呼びに来た事を思い出す。そのときは僕だけだったので「歩いてゴールするさ」と会話は終わってしまっていた。5時も近くなるとケリーは諦めたのか荷を解き始めた。明日の船を予約している人とトラック上で会っているので明日には乗れるだろうと切り替えている。そうさ明日仕事があるわけじゃないんだし。。まだひとり・・・ブブーー!
17:13 青空は期待薄だがちょっと体を動かしておこうと出発。ズンズンズンと登りだけなのでハイペースで森林限界を越える。1時間かからずに山頂につく。
12月15日
8:34 ケリーが床の掃除をするというのでストーブをきれいにするだけで出発させてもらう。
9:30 沢を渡り沢沿いに高度を上げる。鞍部に出る手前でトラックはかなり荒れていて倒木をくぐり歩いているうちにザックカバーを引きずり下ろされていた。スタートから2時間でトムソンリッジ(
Thomson
Ridge )の鞍部を抜けトラックは下り始める。橋を渡りピーターソンインレットに近づいていく。今日のトラックはピーターソンインレットの一部ノースアーム(
North
Arm )の北岸に沿う。それまで海岸沿いに伝ってきたのに何故か150m以上登ってグレートウォーク(
Great
Walk: GW )のラキウラトラック(
Rakiura
Track )に合流した。そしてまた海岸に建つハットまで落ちるのである。合流点からノースアームハット(
North
Arm Hut )までは22分、ほぼくまなく木道がひかれ、長い階段が続いている。お金の投資額からしてもまさにグレートなのである。GWと書いて
Golden Walk と読む、なーんちって。。
ハットでは1時間半のランチタイム。もう泥のあるところを歩くことはないだろうと靴、ゲートル、ズボンを洗ってシャバ?に出ていけるように身支度を整える。バーナーも使って即席ご飯と味噌汁のお昼である。
15:00 木道に戻る。あまりに丁寧な過保護木道なのでトップタイムを目指して加速してしまう。40分でソーダストベイ(
Sawdust
Bay )のキャンプ場を通過、そこから1時間でカイピピ(
Kaipipi
)道路に合流した。そして17:37 舗装路になり家が建ち始めハーフムーンベイに帰ってきた。
17:50 船つき場を正面に見るバーに入りジョッキのビールを握って自分に乾杯。まずは喉で1杯。2杯目に10日ぶりの味を味わう。やった、やりました。154km9泊10日、歩けました。