岩稜ルート、チキンになる( Mt. Wakefeild summit route )

日  程 2002.3.27
メンバー 亀山(単独・報告)
概  略 マウントクック村の東正面に構えるマウント・ウェイクフィールド( Mt. Wakefeild; 2058m )。目が覚めたときに飛び込んできた山々に誘われ登りだすが、強風に進路を阻まれ怖さに負けて途中リタイヤ、白旗を揚げる。  ー地図は後日ー

自分の強み「スピード」に影が落ちてきた報告です。

3月27日

本日のシフトは休日。マウントクックのスタッフ寮で朝を迎える。外気を吸い込みにドアをあけると村を取り囲む山々が鮮明な色で網膜に写りこむ。友人に急な誘いを受けたときのように慌ててデイハイクの準備に取り掛かっていた。社員食堂に燃料充填に行くとコックのエルマー( Mr. Elmer )がいて目の前に横たわるマウント・ウェイクフィールドのコース情報を教えてもらう。登り口は大きな木の下、だそうだ。スタートが分かれば後は探せるだろう、と部屋に戻る。取り付きの駐車場まで車で向かいたいところだが、今日の僕の車にはエアフィルターが無い。そんな車で土煙の中はご免なので部屋から歩いていく。30分かかってタズマンバレーロードがフッカー川を渡る橋を越え、フッカーコーナーと呼ばれる場所にある駐車場に入る。なるほど周りの木々の中では一番大きな、高さ6mほどの木の幹の傍から斜面を登っていく踏み後がある。

帰り道の画像ですが右下のTV塔が目指す場所です。 10:03 高度を710mにセットして潅木の間に続くルートに入っていく。ルートは出たり消えたりを繰り返すが当面の目標は斜面中腹に立つテレビ塔。ルートが消えても気にせず標高を稼ぐ方向へ足を向ける。15分もしないで一つ目のテレビ塔(標高 830m)の下に来る。部分的だがはっきりしたルートを追っていく。高度計が930mをさす頃、傾斜は緩くなり稜線に乗ったようだ。

11:02 小ピーク( 高度計1235m、地形図1260m )に立つ。部屋を出たときからずっと直射日光を浴びているので岩陰を探して休む。ここから見る限り、稜線を形作る岩稜を伝っていくようだ。西斜面は急斜面で細かく砕けた岩が幅の広い地すべりを麓まで走らせている。基本は西斜面に比べれば傾斜の緩い東斜面側の稜線ということか。

11:50 一つ目のピーク( 高度計1545m、地形図1566m )に着く。視界はかなり開け東にタズマン氷河の終末湖( Terminal Lake )、西にはミューラー氷河の終末湖がありその上にマウントセフトンが屹立している。それぞれの終末湖から流れ出た川は僕が登って来た稜線の先で合流して南へ流れプカキ湖へ注いでいく。残る北の方角にはゴツゴツ岩の稜線が続いている。

撤退場所からの山頂へ続く道。右奥の白い山はマウントクック。 12:40 どうもペースが上がらない。あまりに遠くまで見えすぎて気合を削がれてしまったようだ。ケルンの立つピーク( 高度計1710m、地形図1740m )に着いた。その先に続く稜線の向こうにあるのがマウント・ウェイクフィールドであることは十分承知しているのだが、ここが山頂なのではないかと思いたくなってしまっている。さらに見える稜線には雪がついていてルートを想像してみるがどうしても雪を避けては通れなさそうだ。次のピークまでは雪は見えないので歩を進める。しかしかなり“渋い”岩場になる。頭大の岩が続きそのどれもが不安定で安心感に欠ける。ルートの下には長い砂礫が盆地状のくぼ地まで流れている。ふとマウントセフトンに目をやるとその背後から勢いよく雲が湧き立ち始めていた。空が動き出した。

13:20 3つ目のピーク( 高度計1790m、地形図1827m )は10畳程だろうか、おおきめの山頂部を持っている。視野に入る地滑りの斜度はますますきつくなり標高差300mを一気に流れている。西風が強くなる。三脚を立てている間にもぐんぐんとその風速は上がってきた。数分としないうちに岩を楯にしないと自分の場所を確保できなくなってきてしまった。

14:00 岩を楯にして昼食のパンとフルーツを食べながら風の弱まるのを待ったが一向にセフトンの方角から吹いてくる風は弱まる気配を見せずむしろ力強くなってくる。目指す方向にある雪の斜面を見ているとどうも怖さが先に立ってくる。さらに既に2時、折り返して戻ることを考えると夕方もいい時間になってしまう。エルマーは3時間だといっていたが。。。風を理由にして戻ろうか。戻るなら早いに越したことは無い。出直すことで腰を上げた。この風は一つ前のピークまで戻るのも真剣にさせた。突風と突風の狭間に動けるだけ歩く。その繰り返しで25分後に1710mのピークにあるケルンの影に走りこんだ。ここからは安心感の方が強い稜線だ。椎名誠の「パタゴニア あるいは風とタンポポの物語り」を取り出して読書タイムにした。この本も常に風の吹いているマゼラン海峡が舞台でこの場で読むには最適な一冊だったのではないだろうか。

この尾根を登って来た、そして帰っていきます。奥はプカキ湖。 15:20 隠れる岩も無くなってきて正式に撤退する。ゴールまでずーっと見とおしの利く稜線が続く。途中一度休憩したが5時前にTV塔まで降りてきた。10分で駐車場に降り立った。しかし今日はここから砂利道をまた歩かなくてはいけない。追い越していく車の砂煙を浴びながら、オフィスに戻っていった。