5月1日
GW後半戦、白馬村側から北アルプスを楽しもう。塩見さんから今回は滑り主体だから、と誘われ来てしまった。
栂池高原ゴンドラリフトイブ、栂池ロープウェイを乗りついで10時、シール歩行を開始した。子供連れのハイキングの方々とも一緒に乗車、やけに大きなバックパックに子供たちの興味の視線を感じてしまう。天気は快晴、気温も上がり直射日光を浴びれば汗が吹き出る。天狗原まで上りが続く。立ち木が少なく影の下にも入れない。ただただ太陽の槍をまともに受ける。
天狗原はヘリスキーの着陸地点になっており、その平坦地でスキーウェアを着こんでいるパーティと、下着一枚になっている自力組みには明らかな外見上の差がある。じい様になるころまでにはあちらのヒトになりたいものだ。天狗原の正面には乗鞍岳東斜面があり、2、30人のスキーヤー、ボーダーがハイクアップしてターンを刻んでいる。日帰りのデートコースにはうってつけだなぁと記憶にインプットする。
汗が引いたところで僕らのセッションをはじめる。蓮華温泉に向けて中尾根の西側を滑り降りていく。赤布や看板などのマーカーが豊富なので悪天候で無ければ下へ下へとマーカーをつないでいける。乗鞍沢はまだ雪の下、対岸にわたるのも容易だった。たっぷりの休憩、写真・ビデオタイムをとりながら1時間半使って滑りを楽しみ、再びシールをつける。蓮華温泉ロッジについてのは13:30だった。
さて、ゴンドラに乗るときに秤量計が発券所の脇にあり、三人でそれぞれのザックを載せた。僕のは20キロ前半、塩見さんのは四捨五入で30キロになる重さだった。しかーしっ!そんなことは彼女の行動に何の変更も生じないのである。ロッジの中に消えていくとビールを抱えて出てきた。500mlのカンビール一人三本、「いるでしょ?」。丸々と太ったザックはさらに縦に大きくなった。
ブナの森を通りながら兵馬の平へ滑りこむ。ここから瀬戸川にかかる鉄の橋への斜面は急で森も密なので慎重に下る。背中は満載のままだ。幅は狭いが白い斜面を見つけ塩見さんがドロップイン、後ろ姿はザックしか見えない。とザックが変な挙動をして見えなくなった。覗きこむと木に引っかかる前に止まっていたが膝を痛めてしまったらしい。高坊も筆の誤り、か。
鉄の橋を渡ってから30分ほど前進してテン場を探す。情報では沢が顔を出しているポイントがあるという。正面の支尾根を乗っこすとポッカリと10畳ほど沢床が出ていて平坦地が広がっていた。文句無し、木々の間からは朝日岳がのぞき、西日が濡れた物を乾かしてくれる。スキー板を背もたれにして飲むビールは今日一日を全て良い思い出だけにしてしまう。
塩見さんの膝は腫れているがひどくはない。雪をビニールに積めてアイシングを続けるが「明日はテントキーパーしようかなぁ」なんて気になる発言。明日からが本当の楽しみ、ぜひ三人揃って山頂から滑りだしたい。
5月2日
4時起床。ご飯、昆布煮、さけ缶、納豆と続く充実した朝食を食べていざ朝日岳を目指す。ヒョウタン池を確認しながら白高地沢の南を進む。木々がまばらになり白い斜面が広がりだすと北に五輪山がよくわかる。
3時間半が経過して標高2060mまであがり稜線の上に立った。朝日岳北側の鞍部「千代の吹上」かと思われるがコンパスで目に入る山々を確認すると腑に落ちない。んー、どこなのだろう。現在地に自信が持てないまま頂を目指す。
鞍部から小一時間登りピークに立つ。東斜面は雪崩でスパンと切れ落ちている。雪屁の上に乗らぬように顔を覗かせている木々から離れないようにあがってきた。頂上部にはひとりの男性がピッケルをさしていた。そして・・・・・ここが赤男山だと教えられる。僕らが朝日岳だと目指していたのは明日の目的地、雪倉岳だった。これで納得がいく。さっきの鞍部は朝日岳南部の小桜ヶ原となる。
ここまで来てしまった。予定どおり本日は朝日岳に行くか、隣にある雪倉岳に行ってしまうか、10分の休憩のあと僕らは小桜ヶ原へと戻ることにした。鞍部から1時間半、今度こそはと朝日岳の山頂に立つ。登ってきた斜面を滑り降りるので下見をしながらここまで来たが、かなり広い斜面が広がっている。雪は十分緩んでいる。東側に寄りすぎると雪崩のデブリの中に入ってしまうのでそこを注意すればよさそうだ。・・・・・ムフフッ
14:10 スキーのトップを下へ向ける。べたつき始めているのでトップを詰まらせないように先行させる。自分の中ではじけているアドレナリンの量を計れたら、と思う。雪面は光を深いところから反射させている。目印にした森の端にある木を行きすぎないように広がる雪面を追った。小桜ヶ原からはテン場に向かって少しづつ軌道修正しながらおいしい斜面を食べていく。雪倉岳から降りてきたシュプールと交差し、その行き先を向くと大きなテントが張られていた。彼らも楽しんだに違いない。

まだ日が高いうちにテントに到着、強い西日で濡れものはきれいに乾いた。その中にはたっぷりと水を含んだシールもある。スキーと接着するガムの部分も風にさらして乾燥させると接着力が回復する。
5月3日
このGW、雪のあるところでは青空しか見ていないかもしれない。歩き始めは昨日と同じルートを進むが、じきに南側の支尾根に取り付く。ところが稜線を伝うつもりが稜線に雪が無く、瀬戸川の支流に降りることにする。雪倉下ノ沢を上へと向かい、勾配のゆるいところを探して高度を稼ぐ。昨日頂上に立った赤男山を見上げながら、その左、南に位置する雪倉岳に近づいていく。とことん暑い。登る汗よりも暑さにバテてしまいそうだ。
前方に岩が露出している。雪でつながった部分は無く、ハイマツの緑が見慣れた白の空間に鮮やかに存在している。その先にまた雪がつながっているので深追いせずに担いで渡る。山頂は近すぎて見えなくなっている。とはいえ、それから1時間登ってもまだ斜面は上を向いている。日陰は無く短い影を造りながら休んでいると、上から二人滑ってきた。そうだよ、滑るために登ってきたんじゃないか!
雪倉岳から北に伸びる稜線の一部に雪屁ができていてジャンプ台ができているのが見える。着地する部分は均一、に見える。雪崩を引き起こすには斜度がゆるい。雪屁が崩れてこなければ大丈夫ではないか?頭の中で議論を交わす。
6時間かかって雪倉岳山頂に立つ。昨日も、そして今日も3人で山頂に立てた。白馬岳方面からの山スキーツアーの方が何人もいる。聞けば僕らのルートは教科書的には逆ルートで珍しいという。しかしそれはありがたい話で、人の背中を見ることなくまぶしく光る世界を楽しめた。
行きに気になった雪屁ジャンプは成功、広い斜面には大周りが似合う、と勝手に解釈して板がバタつくところまでターン弧を大きくとる。
ハーフパイプをさらに拡げたような雨トイ状のバージンスロープを発見、塩見さんと空荷で登る。ザックに戻ると宮川さんはコーヒーを用意してくていた。
し・あ・わ・せ。純粋にうれしいと感じられた。
先を行く塩見さんが急に振り向き「熊!クマがいる」。雪原の中、黒い固まりは良く目立つ。軽々と木に登り、頭を下にして颯爽と下りている。お見事!カモシカにも何度も会えた。ここにはまだ彼らが生活できる空間がある。
5月4日
昨晩、今日の行動について話し合った。ルート図からすれば4時間もあれば帰れる。五輪山にでも遊びに行ってから帰っても時間的には十分と思わる。ただ、僕はここ数日のあまりにも良すぎる天気に不安を感じていた。山の上部の斜面でも土が混じり始めている。僕らがここにいた間だけでも姿が変わってきている。これから向かうところは当然今よりも標高の低いところである。雪が無くなればスキーは突如として追加荷物に変身してしまう。初めてのコースなので余裕を持ちたい、という僕の意見を採用してもらった。
蓮華温泉までは一度通った道である。鉄の橋は狭くて離合ができない。連休最後の日曜日だからか渋滞になっていて順番待ちが続く。逆方向でよかった。兵馬ノ平への登りはしんどい。シールが効かなくなりそうだ。蓮華温泉についたときにはすでに2時間が過ぎていた。
弥兵衛川は水面が顔を出し対岸に渡れないとの情報をもらい、ヤッホー平へ林道経由で向かう。勾配があるのかないのか、スキーが滑らないのか、歩くスピードでしか動かない。シールをはずしてみるが板は走らなかった。げんなりして栂平に着くと正面に見える鞍部へ向かって道が続いている。結構な斜度、そしてそれは藪を刈り取って作られたような道で土が出ていた。食料が減ったとはいえ板が荷物になるとザックのハーネスがきしむ。泥の中にステップインしながら勢いで登っていった。
峠には4人組そして二人組の先客がいた。二人組はお昼寝タイムだ。ここならさぞおいしいお昼寝だろう。
あとは下るだけ、とは言っても雪はべったりで滑らない、曲がらない、止まれない、のテクニカルコース。林道で一度板を脱ぐが影の部分に残る雪をつなげてぎりぎりまで滑る。最後はすっかり雪の消えた木地屋の里を歩いてデポした車に帰ってきた。行動時間8時間、遊ばなくて良かった。。。
