9月23日 地図(練習中です)はここをクリック
雨は昨日で一段落、天気予報はこれから青空が広がり夜は星マークをつけている。
当初の計画では大雪山旭岳から白雲岳をぬけトムラウシ岳まで縦走しようと思っていたが、登り始めるそのときから雨具を着るというのはどうもいただけない。ツアーではないので自分の思いに従い1日待った。そしてこの高気圧が来てくれたが長居はしないようだ。“あっさり”単発に切り替える。トムラウシ温泉東大雪荘から更に林道を進んでトムラウシ短縮コース登山口まで入る。十分に日帰りルートだが、星を見るなら山の上で見たいという単純な欲望に従いテント装備で車を離れた。
後ろには、わざわざ休暇を合わしてくれたSunnyがいる。ニュージーランドのスタッフ仲間でお世話になりっぱなしなので、少しでも「恩返し」をしたいと僕のザックにはビール1リットル、瓶のフルボトルワインが入っている。ところで、彼女が背負っているのは“自分の”寝袋と、“自分の”テントマットと、“自分の”着替えくらいのはずなのだが65リットルザックは最大長となり、背負うと頭よりもザックのほうが高くなっている。外見には1週間の縦走装備のようである。すれ違う方々に何度もエールを送られていた。
深い緑色をしたクマササを両脇に見ながら平坦な森を進む。20分で東大雪荘から始まる本線に合流する。緩やかな勾配の静かな森が続くが水はけが悪いようでぬかるみが多い。それでも「嫌だな」と思うところには必ずといっていいほど板が渡してあったり、切り株が飛び石状に置かれていて歩く事に支障はない。ただ、水が流れ深く掘り下げられてしまっている登山道は、森が負った掻き傷のようで複雑な気分になる。森に抱かれたくて森に入っているのに、その傷を大きくしているのはそこを歩いている僕自身であり、自然の偉大さを感じ取る行為が自然に痛手を負わせてしまっている。
本線合流から小一時間、登りが一息つくと旧道との分岐が現れ程なく「カムイ天上」の指標を目にする。旧道は厳重に柵とクサリで閉鎖され、その前には「新道←」と大きく書かれた杭が刺さっている。後日聞いたことにはコマドリ沢に沿って上がっていくのが旧道なのだが、そこで死亡事故があったことが新コース設立の理由らしい。
新コースは笹の刈り払い道で、道に残る枯れた笹が足を滑らせる。刈られた切り口はかなり鋭角で硬いため、下手に転ぶと刺さりそうだ。さらに片斜面が続くところもあり、あまり快適とはいえない。それでも尾根道なので景色は遠望が効く。東に石狩岳がどっしりと構えている。笹原の向こうに斜面が見てくると緑でなく黄色と紅が入り込んでいる。「もう終わっている」と聞かされていたので、これだけでも残っていてくれたことに感謝である。紅葉の残っているところまで行って下山してくるカメラマンとすれ違う。おせっかいだとは承知しているが、三脚を手に持ったまま歩くのはどうしたものだろうか。歩くときは両手を空ける。それにカメラマンにとって三脚はとても重要な機器のはずである。それをストックの代わりに使うなどもっての外だと思うのだが・・・・・。
コマドリ沢を渡り前トム平へ向かって枯れ沢に沿って高度を稼いでいく。急にパンクしたかのようにSunnyの足取りが重くなっている。風邪気味だったと山の上で言われても後の祭り。予報ではもっと晴天になるはずだが冷たい西風がトムラウシ山頂から吹き降ろしてくるので、体温がかなりのスピードで奪われていくのがわかる。前トム平は何が書いてあるのか全く解らない錆茶けた板が二枚ついたコースポールだけだが、ぜひコースを外れて石狩岳方面にせり出した高みに足をのばして欲しい。足の下から縦に広がる3次元の景色に包まれることが出来る。
既に森林限界を超え岩がゴロゴロしだす。崩壊地をトラバースしてトムラウシ公園の名を持つ沼の点在する窪地を見下ろす所までたどり着いたが、風はますます強くなり風の温度も一段下がったように感じる。。予定していた南沼キャンプ指定地へはもう一つ大きな登りがある。縦走ではないので翌日のために重い荷物を先へ進める意味は低い。動けなくなるまで歩くのは最悪のシナリオだろう。指定地以外でキャンプを張ってしまうことになるが体(からだ)最優先で考え、山の神様に謝ってからテントサイトを探し始めた。
三方向を岩が守ってくれる一角を見つけ、強烈に吹き込む風にテントが飛ばされそうになりながらも何とか設営を終えた。しかし防風対策を整え終わる頃、風は止み陽に当たると表面温度が上がるのがわかる。変温動物の爬虫類よろしく動きが活発になる。慌しそうに動きながらもビールはしっかり細い流れの中に冷やしてある。空は青が広がり、山の向こうに隠れていく太陽がこれから始まる星たちのオープニング役にまわってくれているようだ。
テントに食物臭を残さないように、離れた岩場を夕食会場とする。
この土地は熊たちのものだ、それを忘れちゃいけない。そして僕ら人間がしなくてはならないことは、ヒトの持ち歩く食料はおいしくて手に入りやすい、とクマに学習させないことだと思っている。
クマにとってもヒトは怖いはずである。でもその危険を冒してしまうほど食への魅力に憑かせてしまうのがゴミの放置だろう。クマは怖い動物ではなく山の神<キムンカムイ>であることを忘れたくない。ヒトがクマを怖い動物に作り変えてしまうのだ。神の住処で遊ばしてもらう礼儀作法をヒトが実践することが共存の第一歩だと考えている。
ビールが終わりワインのコルクを抜く頃、カシオペアが光りだしてきた。さすがに秋の深まる標高1800メートル、気温が下がってきたのでワインボトルだけ持ってテントに移動する。再びつま先が温まるのを待って外に出ると”天の川”がはっきりとした白い帯となって空を横断している。ひさびさに痺れる星の明るさだ。ツーッと白い筋が走る。ツイてる。ピンポイントキャンプ成功だ。
9月24日
軽い荷物で山頂を目指す。十勝岳の噴煙がまっすぐに立ち昇っている。向かって左側に綺麗な円錐形で天に伸びているのは下ホロカメットク山だ。風も無く快適さだけに取り囲まれているようだ。当初テントを張るはずだった南沼キャンプ指定地には一組が朝食を楽しんでいた。水場はなく彼らは出発地から持ち上げてきたという。通常は往復30分かけて南沼から持ってくる。後でわかるが、山頂をまいて北沼へむかうルート上に小さな池があったので、南沼まで下って水を確保するよりも水平移動だけなので楽だろう。
分岐からは大きな岩の積み重なったひとのぼり20分、こちらからのルートでは最初に抜けた高みが頂上になる。北側の表大雪が稜線伝いに見えてきた。旭岳の噴煙も見える。稜線をたどれば白雲岳にいたり、そこからずーっとこのトムラウシまで繋ぐことが出来る。次回の楽しみに取っておこう。反対側のヒサゴ沼から上がってきた単独者と景色を分け合う。気付けば1時間近く山頂にいる。来たルートを戻らずに北沼までヒサゴ沼方向におり、そこから山頂迂回路を散歩して南沼キャンプ指定地に戻った。そこで前述の水場をすぎてきた。
ところで、このキャンプ指定地には携帯トイレブースがある、と書かれていたが台風で崩壊していた。壁は山積みになり、屋根が地面に刺さっていた。携帯トイレブースとは、登山者が紙オムツを持参してブース内の椅子にセットして利用する。使用後のオムツは登山者が持ち帰る方式のトイレである。利尻岳でもいくつか見た記憶があるが、最小の投資で実現できる登山路トイレだと思う。ところが管理はどうなっているのだろう?。建てれば終わり、ではない。建てたものを維持する活動の方がはるかに大切だろう。トイレの現状はこの後訪れる知床でも味わうことになる。
テントに戻る道では10人をこえる日帰りハイカーとすれ違う。山頂混雑前に十分楽しめたと得した気分、コーヒーを飲んでから撤収に取り掛かった。ところが青一色だった空は、再び大きく成長したザックを背負う頃には雲に覆われてしまった。帰路はSunnyのペースも復調、2時間でカムイ天上まで下り、午後2時前に車に戻ってきた。そしてこれ、ホントの話。靴を脱ぎ終わると雨粒が首筋にあたった。
車のワイパーを動かして国民宿舎東大雪荘トムラウシ温泉へ向かう。設備も十分、料金も350円と良心的で極楽気分のまま締めくくることが出来た。